「価格」と「価値」の違い
住宅ローンを利用する際には、ローンで購入する対象となる不動産に抵当権が設定されます。抵当権とは、万が一返済が出来なくなった時に、抵当権のついている不動産を例えば競売にかけ、その売却代金を残債務の返済に充当させることができる権利のことを言います。そして、抵当権実行時に「どれくらい資金を回収できるのか」を把握するために、銀行が算出した金額のことを担保評価額と言います。
さて、この担保評価額ですが、一般的には物件の購入価格とは異なります。中古住宅の場合、この担保評価額によっては借入金額が当初の想定額より減額されたり、借入期間が短くなる可能性もあります。それでは、担保評価額はどのように算出されるのでしょか?
担保評価額の計算方法
担保評価額の計算方法は、金融機関ごとに異なりますが、一般的には「積算評価」を基本としているようです。
以下の計算方法は、あくまで、目安ですが、概略を理解しておくといいでしょう。
まず、土地に関しては以下のように算出されます。
(路線価については、第8回のコラムに詳細を掲載しておりますので、参考にしてください)
次に建物です。建物は以下のような計算方法で算出されます。
再調達価格とは、対象物と同等の建物を再築または再取得するために必要な金額で、建物の構造によって、その価格は変わります。また、金融機関によっても設定金額に多少の幅があります(下記金額は、目安です。)。
・木造・軽量鉄骨:15万円/㎡
・重量鉄骨:18万円/㎡
・鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート:19万円/㎡
上記価格に延床面積(㎡)をかけたものが、再調達価格となります。
ただ、これはあくまでも再調達した際の“新築時”の価格なので、中古住宅の場合、ここから築年数によって減少する価値分を差し引かなければなりません。
耐用年数は、以下の通りです。
・木造・軽量鉄骨→22年
・重量鉄骨→34年
・鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート→47年
例えば、木造の場合は22年で建物の価値がゼロになる、つまり、新築から22年間、徐々に価値が下がっていくと考えられています。
それでは具体的に、以下のような中古住宅の担保評価額はどのようになるでしょうか?
・土地:160㎡
・路線価:10万円
・構造:木造・軽量鉄骨
・築年数:15年
・延べ床面積:130㎡
(土地の担保評価額)=10万円×160㎡ = 1600万円
(建物の担保評価額)=15万円×130㎡-15万円×130㎡×15年÷22年 =620万円
→ 合計 2220万円
積算評価だけでみると、2200万円までは住宅ローンを借りることが出来る、と言えます。
国土交通省が打ち出した新指針、中古住宅評価手法
中古戸建て住宅の流通市場における「築後20年から25年程度で一律に市場価値がゼロになる」とされる取引慣行を改善し、住宅の劣化状況やリフォームの状況等を的確に反映した評価がなされるよう、国土交通省では平成26年3月に「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を策定しました。
具体的には、住宅全体を評価するのではなく、住宅を大きく「基礎・躯体」と「内外装・設備」(さらに①外部仕上げ、②内部仕上げ、③設備などに区分される)に分類し、それぞれに再調達原価を算出して、各部位の特性に応じて減価修正をしたうえで、それを合算して建物全体の価値を導き出すとしています。つまり、建物全体の価値が一律に下がっていくと考えるのではなく、住宅を分類して精査し、個々の住宅の状態に応じて使用価値を把握したうえで評価し、築年が経っても使用価値(人が居住するという住宅本来の機能に着目した価値)のある住宅は評価をするという方向を示しています。
積算評価はあくまでも基準
積算評価で算出された金額は、あくまでも基準です。つまり、「積算評価=融資金額」というわけではありません。また、金融機関によっても、評価額の算出方法は異なります。
もちろん、担保評価額以外に、購入される方の属性や年収などによっても融資金額が大きく異なるので、物件を購入する時には、金融機関に「もし、自分が購入するとして、この物件なら、いくら借りられるのか?」を確認するといいでしょう。
中古住宅の場合、仲介手数料など自己資金で賄わなければならない金額の割合が大きいことが多いようです。住宅ローンで借入できる金額が下がってしまうと、仲介手数料等を自己資金から捻出することになるので、積算評価額だけにとらわれず物件の使用状況、リフォームの時期・箇所等を金融機関に説明し、融資金額の増額等について交渉してみましょう。
この記事を書いた人
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了
立教大学大学院 博士前期課程修了
株式会社船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate
ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 等を経て 現職。
不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
公式サイト http://yoshizakiseiji.com/
社団法人 住宅・不動産総合研究所 http://www.hr-i.jp/
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