「衣・食・住」というように「住まい」は人生と切っても切れない関係にあります。このコラムでは,人生の様々な場面での「住まい」いわゆる不動産に関する法律問題について解説していきたいと思います。
前回のコラムでは、住宅ローンを払うことが難しくなった時、「オーバーローン」状態の債務者は,
① 不動産仲介業者がより高い金額で購入してくれる買い手を見つけてくれる可能性がある
② 引っ越しの時期を調整できる
という点で競売よりも債務者にとって有利な場面が多いので,住宅ローンの支払いが滞っている,もしくは支払いが苦しくて不動産の売却を検討されている方に「任意売却」による不動産売却をお勧めしました。
既に不動産の競売手続が始まっている方へ
では,「すでに我が家は数か月も住宅ローンの支払いができなかったせいで,もう不動産の競売手続が始まっているよ」という方はいらっしゃいませんか。
不動産の競売手続きが開始されたら「任意売却」の方法では売却できず,裁判所による競売に身をゆだねるしかないのしょうか。
競売の申立がされても,担保不動産競売開始決定の通知,執行官の訪問,期間入札の通知,入札期間の経過,開札,立ち退きという流れで進むので実際には立ち退きまでに一定程度の時間(一般的には3か月から4か月程度)を要します。したがって,すでに競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」ができなくなるわけではありません。
前回のコラムでも解説したように,債権者である銀行などにとっても競売よりも任意売却のほうが高く売れる可能性があるので,競売手続が開始された後でも,競売の申立を取り下げてくれる可能性もあります。
もっとも,競売の申立てがされたことで任意売却ができる時間が制限されることには十分な注意が必要です。
任意売却が可能な時期は?
競売の流れの中で取り下げが可能なのは,入札期間が終了し開札されるまでです。競売手続が開始されると,地方裁判は一定の「入札期間」を定め,その期間内に入札を受け付け,別に設定された開札期日に開札を行って最高価買受申出人を決定します。入札された額のうち最も高い金額で入札した方に対し売却決定の通知が出されます。
この開札期日までであれば,競売手続きが開始されていたとしても「任意売却」できる可能性はあります。
したがって,すでに競売手続きが開始されているからといって「任意売却」を諦めないでください(もっとも,任意売却をお考えであれば早めのご相談をお勧めします。)。
税金や社会保険料滞納による不動産差し押さえの場合
では,住宅ローンの支払いはしていたけど(またはすでに住宅ローンの支払いは終わっていて)固定資産税などの税金や社会保険料を滞納していた,その結果,不動産を差押されたような場合でも任意売却はできるのでしょうか。
抵当権などが設定されている不動産であっても、不動産仲介業者による抵当権者との交渉により抵当権などを抹消することで「任意売却」を実現することができるのと同じように,差押された不動産についても,不動産仲介業者が租税債権者である市税事務所などと交渉して,差押を解除してもらうことができれば,「任意売却」することは可能です。
もっとも,税金の滞納による差押を解除することは,抵当権など担保権の抹消よりも難しいのが一般的です。差押を解除するためには解除費用(「はんこ代」などと呼ばれることもあります。)が求められます。
税金や社会保険料を滞納していても破産すれば支払わなくてもよいと思われている方もいますが,破産をしても租税債務は免責の対象外,つまり滞納した税金を払う義務はそのまま残ります。
そのため,差押をしている市税事務所などと交渉しても「滞納している税金全額を支払わなければ差押解除には応じられない」と言われることが多いのも事実です。しかし,専門的なノウハウを持った不動産仲介業者であれば,税金滞納による差押がされていたとしても租税債権者や住宅ローン債権者との話し合いによる解決の可能性があります。
もっとも,滞納額が大きく膨らんでいる場合,督促を無視するなど誠実な対応を怠っていた場合には話し合いでの解決ができないこともありますので,税金や保険料による滞納がある場合には早めに相談されたほうがよいでしょう。
この記事を書いた人
吉山 晋市(よしやま しんいち)
弁護士法人みお綜合法律事務所 弁護士
大阪府生まれ 関西大学法学部卒業
弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士が在籍する綜合法律事務所で,企業法務,不動産,離婚・相続,交通事故などの分野に重点的に取り組んでいる。
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